大学生組が偶然皆こっちに帰って来てるとかで、突然幼馴染で集まることになった。そのことがうちの家族に知らされたのはほんの三日前。ここんとこいっつもそんなだ。別にいいけど。私自身は冬太に聞いてたからもうちょっと前から知ってはいたんだけどね。子どもだけで集まってちょっとその辺で晩ご飯でも食べない?っていうお誘いだった。 実は子どもだけで、っていうのは初めて。ちょっと意外かも。だからなんかおもしろい。 ついでに、冬太と彼氏彼女になってから皆に会うのも初めて。・・・実は、すこぉし、緊張。 「あれ、まだこんだけなんー?」 父さんの車で送ってもらって待ち合わせのほんの数分前に着いた半分居酒屋半分レストランみたいな食べ物屋の前には、まだ三人しかいなかった。冬太はいない。お兄さんの和彦はいるのに。 うちの姉弟を合わせてもまだ四人足りなかった。 「直人は部活あるけんちょっと遅れて来るって。清香も直人と一緒に来るみたいやで」 「冬太も部活やって。洋平はなんちゃ聞いてないけんそのうち来るんちゃん」 和彦と裕子が言う。 「おー裕子久しぶりー!」 裕子なんて家も遠い上に学校も遠いから本当に全然会わない。弟の聡と同い年なんだけど、大人びた子で、とってもそうは思えない。 「朝日に会うん私やって久々やわー」 彩も笑う。 「やんねーおかしいよなー学校近いのに」 彩はうちの学校からほんの数分のところの学校に通ってるんだけど、通学路が重ならないからか全然会わない。まあ結局いくら田舎だって言ったってそんなに頻繁にばったり会うほどじゃないってことか。 女の子三人で何やかにや話をしている間に、洋平がふらりと現れた。 遅れても全然悪びれてないのが洋平らしい。 「あー洋平ー」 「じゃ入るで。予約はしとるけん」 和彦が先導して、ぞろぞろ私達はお店に入った。個室みたいな九人にはちょっと狭そうな座敷に靴を脱いで上がる。 「洋平また髪の色明るくなったんちゃーん」 彩がそう言って彼の髪を指差した。すっかり最近のコみたいなカッコした洋平の帽子の下から見える髪は、薄暗いお店の照明の下で見ても明らかに金色をしている。 なんか、軽そー。まあ洋平らしいっちゃらしいんだけど。 「大学生活はどうよ」 「おもろいでー。まあおれはオレはバイトばっかしよんやけど」 「何のバイト?」 「色々」 「和彦はバイトしよらんの?」 「しよるでー。本屋」 「まじで?和彦が本屋?似合わんって」 「何言いよん」 「えーなーおれもはよ大学生になりたい」 「聡やまだ高校生にもなってないやん」 「そうやけど」 「聡どこ受けるん」 「・・・・・・内緒。裕子こそどこ受けるん」 「そんなん聡が内緒やのに言うわけないやん」 皆変わらないなーと思う。そりゃ見た目とかはけっこうあちこち変わったけど、でも本質的には昔から全然変わってない気がする。 飲み物とか料理とか適当に頼んでから和彦のバイトの話をきいてるうちに、清香と直人の姉弟がやって来た。 「清香―!!」 「わー何あんたおばさんになってからに」 「うわひど」 「いやでもそのパーマすごいって」 ちりちりのパーマをかけ茶色く髪を染めて皆の注目を一気にあびた清香の後ろに、直人が笑いながらひっそりたたずんでいる。図体はでかいのに。この控えめさが直人らしくて私はちょっと笑ってしまった。いや清香の髪もすごくておかしかったんだけど。 私は清香に会うのは一年以上ぶりだ。一年以上会わなくっても、別に前と接し方が変わるわけじゃないのは不思議だなと思う。でも、幼馴染ってそういうもんだ。皆私の中にもうすっかり根を下ろしちゃってるから、それが抜けることなんて有り得ない。 大学生組三人は当然のようにお酒を飲んでた。妙なとこで真面目な地元組は普通にジュース。料理はいろいろおいしかったけど、冬太が来ないのが私はずっと気にかかってた。 和彦のとこにかかってきた携帯を、洋平が「彼女?」と言いながら取る。 「あ、冬太か。なーんや。ぅん、わかった。じゃ外まで迎えに行くけん待っとき」 見守っていた皆が一様になあんだという顔をする。 私は内心どきりとした。冬太が、来たんだ。 「けど今の慌て方は怪しいよな。和彦向こうで彼女できたんやろー」 清香がにやりと笑って和彦ににじり寄る。 「できてないできてない」 和彦は笑っているけど私は冬太に聞いて知っている。和彦が嬉しそうに長電話してたのを。そんなの相手は彼女に決まってるじゃない。 洋平に伴われて冬太が上がってくる。真っ先に私の顔を見て嬉しそうにちょっと笑った。・・・そんな顔したらばれるって、冬太。 「お疲れー」 「はよ食べな食べるもんなくなるでー」 私は奥の方に座ってしまったから、冬太とはほとんど机を挟んで真反対くらい。残念・・・とか思っちゃダメだって。ばれるって。 「清香その頭どしたん?」 開口一番彼はそう言った。 「うわ冬太もそんなこと言う」 「だって爆発したみたいやん」 皆笑った。でもホントそんな感じ。だんだん見慣れてはきたけど。 飲みつつ食べつつ話をする。洋平のバイト先での失敗談とか、琵琶湖でバス釣って役所に持ってくとお金もらえるって話とか、清香の大学授業の話とか、あとは高校の先生の噂話とか、そりゃもういろんな話をした。 何回も冬太と目が合う。ぱっとそらす。だってほぼ私の正面にいるんだもの。困る。 「この後どっか行かんのー?」 「どっかって?」 「ゲーセン?」 「カラオケがええなー」 「ボーリングでええやん」 「ボーリングがええ人ー」 九人中五人が挙手して、ボーリングに決定。私は苦手だから挙げなかったけど。まぁいいや。 「じゃ、行きますか」 「歩いて?」 「他にどうやって行くんよ」 「えーけっこう遠いやん」 「こんだけ食べたんやけん歩いたほうがええって彩」 「何ソレ和彦私にもっとやせた方がええって言いよん?」 「言いよらんってそんなん」 ぞろぞろ座敷を下りてお金払ってお店を出る。九人もいると、本当にぞろぞろって感じ。外見も年齢もばらばらで見た目共通点なんてない顔ぶれだから、知らない人はきっと何の団体だろうって思うだろうな。 夜の道を、連れ立って歩く。だんだん二人とか三人とかに別れて並んで話をしながらてくてく歩いた。こんな時間にこんな場所歩いたことなくて新鮮。 一緒にいた清香が和彦に文句を言いに行ってしまったと思ったら、いつの間にかずっと前にいたはずの冬太が、立ち止まって私を待っていた。冬太とはそれまで言葉を交わしてなかったけど、彼の顔が私と目が合った途端ほころぶ。 私の顔もたぶん、同じように笑顔になってると思うとなんだか恥ずかしい。 「ダメやってこんな、二人になったら」 恥ずかしいのをごまかすみたいに言ったら、冬太は私と並んで歩き出しながら笑った。 「大丈夫やろ、ここ一番後ろやし。誰っちゃ見よらんって。・・・ていうか朝日こそ不自然すぎ。あんなに目ぇそらせたらおかしいやん普通」 「え、ウソ不自然やった?」 「めちゃめちゃ」 「えー・・・どうしよー」 「実はすでにさっき裕子に指摘された」 「ええっ」 「『冬太朝日と付き合っとんやろ』。直球。あんまりイキナリやったけん否定できんでやけんたぶんもうばれたっていうか確信された」 「うーわマジでー・・・裕子ってなんか昔からそうやんなー。変なとこ敏感って言うか」 裕子なら皆に言いふらしたりはしないだろうけど、でもすんごい恥ずかしい。 私はため息をついて恨めしげに冬太の顔を見上げる。 「やけん嫌やったのにー」 「遅いって、もう」 「・・・そうやけど」 「なー朝日」 「何?」 冬太は少しの間黙っていた。 「何よ」 沈黙が嫌でせかすと、冬太は夜空を見上げながら言った。 「手ぇとかつないだらやっぱ、まずいかな」 「当たり前やん!」 これ以上誰かにばれるのは嫌なのに、そんなことできるわけがない。って、裕子以外の誰かにもすでにばれてるのかもしれないけど。弟の聡にはまだばれてないはずだし。 「じゃあさ、次のデートの約束、しとかん?」 「・・・・・・えーよ。・・・でも冬太まだ予定わからんのじゃないん」 受験生の私は週末は模試が多いし、冬太も部活があったりして相変わらずあんまりデートとかしてない私達だった。 「二ヶ月先の予定まで決めてきたけん今日遅くなったんやって」 「そうやったんや。・・・いつ空いとん?」 「再来週の日曜」 「・・・それテスト期間ちゃぅん?」 「うん」 「えー・・・」 「けど他に全然会えんやんか」 いじけたように冬太が唇をとがらせた。 「朝日ずっと模試やし。・・・その日やったらおれんち誰もおらんし」 思わず冬太の顔を覗き込んでしまった。暗くてよくわからないけど、たぶんちょっと顔が赤い。つられて私も顔が熱くなった。冬太の家なんかへ行ったらキスとか色々・・・するしか、ないよな・・・。 「・・・・・・じゃあ、えーよ。冬太んちでデートな、その日」 あらぬ方を向いて言ってやると、冬太が首を回して私を見たのを肌で感じた。 頬がちりちりしそうなほど視線が刺さってきたけれど無視して歩き続けていると、そのまま私を見ながら黙っていた冬太が不意に私の名前を呼んだ。 「朝日」 「何よ」 「キスしてええ?」 「え、何言い・・・」 「ダメって言うてもするけん」 反論しようとして冬太の方を振り向いた私の肩をつかむと彼は、すばやくキスを私の唇の上に落とした。 「冬太っ!!」 かあっと血が上って怒鳴りつけると、冬太は口笛でも吹きそうな何食わぬ顔をして言った。 「嬉しかったんやもん」 そんなこと言われたら、怒れないって。 |